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After 3.11

 2011年3月11日の震災の影響で一時的に地元大分に帰郷していた私は、テレビで映し出される混沌とした世界から少し離れた自然界に身を寄せ、その美しさとサステナビリティに魅了された毎日を過ごしていました。電力マシーンという人工的な社会ネットワークに支えられた世界とは異なり、山奥の草木と鳥たちに囲まれる中で、季節が変わるごとに移り変わる木々の色と空気に浸り、都会のそれとは全く異なる感覚を取り戻し、思いのままにカメラのシャッターを切っていたのでした。そこに映し出された世界は、小さな花に戯れる蟻たちや、ふとかがんでみた草の上に落ちた季節の花びらたち、山道に突如として輝く一凛の花など。都会に住んでいれば毎日の生活で全く気にもしないこうした気高い小さな自然たちは今思うと心の中でとても大きな存在で、他に代えがたい価値があるように思うのです。その世界は数週間もすれば、色や形を変えて生態学的に機能し、生きているのです。このような世界が懐かしい私はこの美しさを「green ceremony(緑のお祝い)」として1つの動画にしたのでした。

 実はこうした環境は私の音楽活動にも影響を与えていました。これまで少し時間をかけて作っていた打ち込みの電子サウンドとは異なり、自然の中での偶然性と生音の一発録音を試みて生まれたのが「atmoshphere」というアルバムです。rainy day pianoは初夏のセミが鳴いている頃に襲った夕立の中、古民家の母屋に置いてあったYamahaのピアノを台所で母親が料理する音を聞きながら弾いて録音した即興曲です。stone throwerは​その場にあるものを使って音楽を創ろうとあたりを見まわして見つけた金だらいに砂利の石を思いのままに投げ込み、その録音された音の上からインドネシアで買って持ち帰っていたsulingという笛でその勢いのまま吹いて創った曲。under river songは竹工芸を営む父からいただいた黒竹を使って自作したrain stickに民芸品店で購入していたカリンバとカエルのギロで奏でた川の中の世界。angel chimeは、家の窓際にたまたまかけてあった天使の形をした風鈴が風をうけて奏でる音にカリンバで音色を付けた曲。

 自然という偶然性は時に人々に不幸をもたらしますが、その存在自体は美しいもので、よく観察し付き合っていくとそこには常に新しい発見があり、そこからかけがえのない価値が生まれていると私は思うのです。

green ceremony
atmosphere
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